世界で初めて作られた

0.2mm 厚チタン製カップ

「Apex cup t0.2」開発秘話

2025年の新製品、アウトドアブランドとして初の0.2mm厚のチタンで作られた「Apex cup t0.2」についてエバニューアウトドア事業部の太田一寿(以下:太田)と開発者の仲亮典(以下:仲)による対談をお送りいたします。

アウトドア事業部 太田 一寿(右):暇をみつければ山に入りトレランや縦走など横方向をメインに活動をしている営業。
アウトドア事業部 仲 亮典(左):山が好きで岩登りやイワナ釣りをしに、週末はほぼ山に通う開発。

目次

(エバニューという会社について)

まずエバニューという会社について紹介していきましょうか。

はい。エバニューは大正14年に創業し、2024年に100年を迎えた会社になります。
創業当初から金属関係に強くピッケルやハーケン、クッカー、当時でいうコッヘルなどを登山の道具として作り続けています。

それこそ昭和初期、近代登山の黎明期から登山愛好家に道具を届けてきたブランドですね。

(クッカーの歴史について)

アルミから始まりステンレスに移り変わりこの2つの素材が中心でしたね。

確かに!昭和はアルミかステンレスって感じで長く続いていましたね。

(チタンの歴史について)

チタン製クッカーの開発についてはどうですか?

90年頃にチタンを素材として目を付け1993年頃から開発をスタートして94年の展示会で発表。95年に発売を開始。これが世界初の出来事で、「チタンで鍋を作る」という当時、誰もやったことがないこと行い、大先輩方が量産化にこぎつけたと聞いています。

当時チタンのクッカーを開発する上で「生産できるところを探すのが非常に難しかった」と伺ってます。

そうですね。金属加工の中心地、新潟県燕市の職人さん達なくしてチタンクッカーは生まれなかったということですね。

最初のチタンクッカーの厚さは0.4mm。現在でも0.4mmが一番流通している厚さですよね。そこから25%軽量したのが、エバニューでULチタンといわれている0.3mmですよね。

そうですね。0.3mm厚のチタンが2000年になります。0.4mmから0.3mmにする上での苦労としては、チタンの板材をプレス機にセットして上下の金型から絞っていくんですけど、しわが寄ったり、亀裂がはいったりと問題は多かったですね。

量産しようとすると色々あるんですね。

チタンインゴットからの削り出しによるワンオフや、板材を回しながらヘラで絞っていく「ヘラ絞り」だと問題は少なくなりますが、職人による手仕事のため、量産には向かないという新たな問題がでてきてしまうんです。

そうですね。ひとつずつ手仕事でつくると物凄い価格になりそうですもんねー。

桁の違う世界になってしまいますね。

なるほど。でもプレスをするのも機械だけではダメなんですよね。

企業秘密になるので詳しくは話せないんですけど、設計、金型、プレスのノウハウなど様々な要素が絡んで初めて達成したということです。

(0.2mm厚チタン開発のきっかけは)

0.2mm厚チタン開発はどういうきっかけはなんですか?

チタンカップ開発を始めた頃はエバニューから職人さんに「チタンでカップを作ってくれないか」と挑戦状を投げたわけですが、30年近くで何百万とチタン加工をしてきた中で、もっと薄いものも加工できると、0.2mm厚チタンは職人さんからの投げかけられた逆挑戦状だったんですよ。

笑。ルーティンワークではダメで「より難しいものへ挑戦したい」という、作り手としてのプライドが触発されたんですね。

(Apex cup t0.2開発について)

0.2mmの挑戦を受けてサイズをどうするかを考えました。開発としては「Ti 400FD Cup」を0.2mmにするというのは安易な考えでオリジナリティが無く、挑戦してきた職人さんに失礼と考えました。

「いつものを0.2mmで絞ればいいんだね」ってことですね。

試行錯誤しながら、日帰り登山などで良く使われる「110サイズのガスカートリッジ(以下:OD缶)」に着目しました。コロナ禍のキャンプブーム時に金属製のOD缶カバーが出てきて、私は疑問を感じていたのですが、そこから妄想が膨らみ「これだ!密着だ!」と感じました。

OD缶にジャストフィットするってことは分かりましたが、それだけではないですよね?こだわりが色々あると思うんですけど?

1つ目はカップのフチ巻きを含めて110g(サイズ)OD缶の「最大径が同じ」ことです。これにより、OD缶がスタッキングできるカップやポットにまとめて収納することが出来ます。

なるほど。OD缶が入るスペースにカップを1つ増やせるということですね。

OD缶の底部の出っ張りにはみ出ないようにカップのフチ巻きは念入りに調整を加えました。

気になっているんですが、OD缶に対して少し低く隙間がありますよね?この隙間はなんのためですか?

一つ目は「Ti 400FD Cup」や「Ti 570FD Cup」との親和性を持たせるためになります。
OD缶の高さに合わせてしまうと「Ti 400FD Cup」などと高さが揃わず、「Ti 400FD Cup」を「mulTidish」などでフタをする際に弊害が出てしまうので、それを回避する高さに設定しています。

OD缶に拘らず、アルコールストーブや固形燃料と「Ti 400FD Cup」とのスタッキングも考慮しているわけですね。

二つ目は「サビ移り」対策です。OD缶はスチール製のため結露や吹きこぼれなど様々な要因で錆びることがあります。チタンは錆びることがありませんが、錆びたOD缶がチタンに触れると「サビ移り」が起こります。OD缶にジャストフィットするということは、キッチンペーパーなどでカバーする隙間が無いので、口が接するフチ部分はOD缶のリム(スチールむき出し部分)と接触させないようにし「サビ移り」のリスクを下げ、衛生的に保てるようにしています。三つ目に高低差を作ることでOD缶を抜きやすいというメリットもあります。 *1

*1「サビ移り」と「ガルバニック腐食」の複合的な要因で、錆びない筈のチタンが錆びることがあります。

「サビ移り」
文字通り錆が移ってしまう現象。ここでは、缶の錆が、錆びない筈のチタンに移ってしまうことを説明しています。錆びやすい方を、錆びづらくさせる(水分を拭き取るなど)が、予防法。

「ガルバニック腐食」
異なる金属が接触した状態で、水などの電気が流れやすい環境や腐食環境下におくと、イオン化傾向が大きい方の金属の腐食速度が増大する現象です。異種金属接触腐食と呼ばれることもあります。 つまり、チタンと缶(スチール)+水分という条件が揃うと、スチールが錆び始めます。その錆が、チタンに移って(錆移り)しまうことがあります。錆びていない缶でも、水分があると錆が発生しやすくなるので、仕舞う際は水分が無いようにしてください。電気が発生要因なのでチタンと異種金属の間に、紙やビニールなど絶縁性のある物質を挟むことでも予防できます。 Apex cupは、チタンに触れるのがガス缶のキャップ(樹脂なので絶縁性あり)と、缶の塗装部(塗料による絶縁性ともともと錆びにくい部分)だけになるので錆移りやガルバニック腐食は起こり辛いといえます。

(Apex cup t0.2はどういうシーンを想定しているのか)

「Apex cup t0.2」はどういうシーンを想定していますか?

単体運用はもちろんですが、湯沸かし用のポットとは別に「カップを+1つ持ってもらいたい」という気持ちが一番大きいですね。ポットはあくまで湯沸かし専用としてカップが別にあることで、食事分のお湯とスープやコーヒー、片付けが楽になるというメリットもあります。特に「Ti Mug pot 500」「MP 500 Flat」はOD缶と合わせてカップを+1つするにはOD缶のスタッキングをあきらめるか、カップを別で持つかしかなかったですが、「Apex cup t0.2」であれば問題も解決します。

そうですね、2個持ちによるメリットってすごく大きいですよね。「Ti Demitasse 220FH」などだと1つに纏められなくてザックの中を圧迫しますからね。世のマグポット500シリーズを使っている方におすすめしたいですね。あと「Apex cup t0.2」は実際どれぐらいのお湯が沸かせますか?

容量としては300mlですが、沸騰させようとすると満水ではできないので、230-250mlが沸かせる現実的な容量ですね。

(0.2mmになることでのメリット)

続いて、0.2mmになることでのメリットを教えてもらえますか?

薄さからくるメリットが2つありまして、一つ目が「軽さ」、二つ目が「熱抵抗」です。カップ内側の液体に熱が伝わる時の抵抗が薄くなることで減り、熱が伝わるのが早くなるってことですね。*2

*2「熱抵抗値」は材料の厚さを考慮した「熱の伝わりにくさ」を表す値で、熱伝導率は材料そのものの熱の伝わりやすさを表す値です。熱伝導率は厚さは関係なく一定であり、「熱抵抗値=厚さ÷熱伝導率」なので、薄ければ熱抵抗値は低くなることになります。身近な例として、スリーピングマットの「R値=熱抵抗値」と同じです。薄いマット(R値が低い)は熱が伝わるから寒いですよね。

なるほど。軽さもそうですが、「熱抵抗」が減ることで燃料が節約できることも大きなメリットですね。

(0.2mmによるデメリット)

最後にデメリットや注意点について伺いたいのですが?

0.2mm厚のため0.3や0.4mmと比べると剛性が低くなってしまうということです。詳しくは企業秘密ですが、プレスでの圧力のかけ方や伸ばし方で硬度をある程度確保しています。

確かに。触ってみましたが、これで33%薄いチタンを使っているとは感じなかったです。

サンプル段階では柔らかったんですが、0.3mmとほぼ変わらない硬度に調整できたのは燕の職人さんに敬意を送りたいですね。

(最後に)

今回は「Apex cup t0.2」開発者秘話をお届けいたしました。店頭などで製品を手に取って、その軽さ、薄さ、こだわりを感じてみてください。

【Youtube】「Apex cup t0.2」開発秘話